血液検査で分かる!高齢出産で行われる新型出生前診断とは?
2013年より日本でも導入された「新型出生前診断」。略称で「NIPT(日本語の別称で、無侵襲的出生前遺伝学的検査(むしんしゅうてきしゅっしょうぜんいでんがくてきけんさ)の英名Non-invasive prenatal genetic testing)」とも呼ばれています。
新型出生前診断とは、妊婦さんの血液を調べることで、赤ちゃんに染色体異常があるかどうかを知ることができる診断方法です。
近年の高齢出産増加と共に、赤ちゃんの染色体異常の確率は高まっています。この新しい診断方法は、従来行われてきた羊水検査よりも、妊婦さんの身体に負担が少なく検査を受けられるというメリットがあります。
今までの出生前診断では、流産等のリスクもあったため、この新型出生前診断では赤ちゃんに異常があった場合、早期発見ができるので、赤ちゃんへのフォローが早めに行えるのです。
しかし、リスクが少ない一方で、導入当初より「人工妊娠中絶の増加につながるのではないか」という反対の声もあがっていました。
そこで今回は、
・新型出生前診断って何?
・新型出生前診断の方法や費用が知りたい
・高齢出産だと新型出生前診断は必要なの?
といった方に、従来の出生前診断とは一体何が違うのか、新型出生前診断について内容や検査方法、時期や費用についてご紹介します。
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この記事の目次
新型出生前診断(NIPT)とは?
新型出生前診断は、妊婦さんから血液を採取し、その血液中の遺伝子解析をすることで、赤ちゃんの染色体や遺伝子を調べる検査方法です。
従来の羊水検査や絨毛検査など、母体内の赤ちゃんの健康状態を診察する医学的手法はすでに幾つも確立されていますが、これらの診断方法には穿刺針(せんししん)で母体を傷付けて流産のリスクを高めてしまう問題がありました。
それと比較すると、新出生前診断はわずかな血液を採取するだけで済むため、母体への負担を大幅に軽減することのできるメリットがあります。
しかも、従来の採血検査より診断精度が飛躍的に高まっており、80~90%前後の確率で、赤ちゃんの先天性異常を予見することができます。
陰性的中率に至っては99.9%以上という驚異的な数値を記録しており、新出生前診断で陰性と判定されれば、ほぼ確実にダウン症候群の可能性はないといえます。
その一方で、この診断によってお腹の赤ちゃんに異常が判明した96%の妊婦さんが、人口妊娠中絶を選択し、倫理的問題が指摘されています。
新型出生前診断の受診者数は1年目で7740人、2年目に1万60人と、新型出生前診断を受ける女性は年々増加しています。
新型出生前診断を実施する病院グループ「NIPTコンソーシアム」が実施した調査によると、2015年12月までに加入施設44施設へ実績を調査したところ、これまでに検査を受けた女性の数は2万7696人とのことです。新型出生前診断は、この数年で以前よりも身近になってきている検査です。
新型出生前診断の診察手順
新型出生前診断では、以下の順番で診察を受けることになります。
まず、妊娠週数を確認し、赤ちゃんの染色体異常について説明を行います。そして、妊婦さんの体から、20cc程度の採血をし、結果説明と2回の遺伝子カウンセリングを行って終了です。
ただし、この検査は任意検査となりますので、妊婦さんが自分の意思で「検査を受けたい」と申し出ることが必要です。
新型出生前診断では何がわかるの?
新型出生前診断の流れは前述しましたとおり、まずは妊婦さんの血液を採取し、血液中のDNA断片を分析、赤ちゃんに特定の染色体異常がないかどうかを検査します。
そこで、母体血中の胎児由来遺伝子のうち「13番」、「18番」、「21番」の染色体濃度を分析することによって、「13トリソミー」、「18トリソミー」、「21トリソミー」の可能性を見つけることができるのです。
各トリソミーについて
トリソミーとは、通常2本で対をなす染色体が3本になってしまう染色体異常のことを指します。
13トリソミーとは
体細胞の13番染色体が3本存在することによって発症。 奇形や重度の知的障害を持っている可能性があります。パトー症。
18トリソミーとは
体細胞の18番染色体が3本存在することによって発症。 奇形や先天性の心疾患、重度の知的障害を持っている可能性があります。
21トリソミーとは
体細胞の21番染色体が3本存在することによって発症。 ダウン症候群。
各トリソミーが陽性と判定された場合
例えば、妊婦さんの血液中の染色体断片量(濃度)が平均と比べて、21番が多ければ、21トリソミー陽性と判定され、赤ちゃんはダウン症の可能性が高いとされます。検査時期は妊娠10~18週頃で検査結果は約2週間で出ます。
陽性の場合、確定診断として羊水検査を受けることも考慮し、妊娠17週までに受けることを推奨する病院もあります。
妊娠期間が進むにつれて母体血中の胎児由来遺伝子濃度が減少するため、検査の精度が下がるという欠点があります。
ですので、妊娠18週頃まで検査は受けられますが、もし新型出生前診断を希望する場合は、早めに検査を受けられることをおすすめします。
新型出生前診断を受けられる対象者は?
日本産科婦人科学会の指針をベースに、診断を受けられる妊婦さんの条件が決まっています。
・分娩予定日で35歳以上の方(凍結胚移植の場合は、採卵時の年齢が34歳2ヶ月以上)
・過去に染色体異常の赤ちゃんを妊娠・出産したことがある、具体的には21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーのいずれかの赤ちゃんを妊娠、または出産したことがある方、または担当ドクターが検査をすすめた方
・超音波検査において赤ちゃんの染色体疾患の疑いがある方
・妊娠10~18週の方
このように、赤ちゃんが染色体異常である可能性が高いこと、妊娠10~18週であることが、検査を受けるための条件となります。
新型出生前診断は、全ての妊婦さんが受けられる検査ではありませんので、注意が必要です。そして、この検査は、「自由診療」ですので、項目に該当する妊婦さんでも、ご家族と相談した結果「染色体異常症があるかどうかは出産前に知らなくてもいい」という方は受ける必要はありません。
新型出生前診断にかかる費用について
新型出生前診断は自由診療で保険が適用されません。保険適用外のため、費用は全額実費負担で、医療機関によって異なりますが、約20万円程かかり、安いとはいえない金額です。
そして、もしこの血液検査で異常が見つかった場合、確定検査をするのであれば、羊水検査を受けることになる場合もあります。その場合は同じく保険適用外で、10~15万円かかります。
この検査は、日本医学会が正式に認定した総合病院、または大学病院において実施されており、認定医院が遠方の場合、通院のための交通費も別途かかってくることになります。
検査はどこで受けられるの?
認定施設の条件は、日本産婦人科学会の指針で「遺伝に関する専門外来を設置し、出生前診断の十分な知識や豊富な診療経験を有する産婦人科医師、小児科医師が常時勤務しており、検査を希望する妊婦に対する検査施行前と検査施行後に遺伝カウンセリングを、十分な時間をとって行う体制が整えられている施設」とされています。
現在、認定を受けた施設は全国に約50施設あります。2013年の導入開始直後は15施設でしたが、約3倍までになり、以前よりは身近な施設で検査を受けやすい環境となってきています。
ただし、ご自身の認識で認定施設だと思っていても、認可を外れることもありますので、今現在検査を受け付けているかどうか、病院を訪れる前には、必ず一度その施設のホームページや直接病院へ電話するなど、確認して行くのが賢明です。
また、検査を受ける際には以下の項目を確認してから行くと計画が立てやすくなります。
・検査を受けられる条件を再確認
・予約が必要がどうか、また対象検査が受けられる曜日や時間帯
・紹介なしで検査可能か
・採血を行うのは妊婦さんのみか、夫も必要か
・検査にかかる費用(施設によって異なる場合があります)
・検査の簡単な流れ(検査の所要時間)
施設ごとにインターネットで公開している情報量には差がありますので、情報公開している他の施設を目安にするのではなく、実際に検査を受けに行く施設の情報を確認することをおすすめします。
また、病院によっては担当者が一人しかおらず、問い合わせる曜日や時間帯が決まっていることもあります。
予約でいっぱいのため、希望施設では、検査が受けられず他の病院を探すことになるかもしれません。認定施設は増えてはきていますが、それだけ検査を受ける人も増えてきているということでもあります。
地域によっても認定施設の数は異なりますので、検査を受けられる施設が少ない地方であれば、予約が取りにくい可能性は大いに考えられます。検査を受けると決めたら早めに行動しましょう。
新型出生前診断を受けるメリットは?
新型出生前診断で調べられる先天性異常は、ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーの3つです。
従来の出生前診断の一つに「クアトロテスト」というものがあります。クアトロテストも、新型出生前診断同様に、妊婦さんの血液採取によって、お腹にいる赤ちゃんの染色体異常などを調べる検査です。
クアトロテストによって調べられるのは、ダウン症候群、18トリソミー、開放性神経管奇形の3つとなります。
それでは、クアトロテストという似た検査方法がありながら、新型出生前診断が画期的とされた理由はどこにあるのでしょうか。
その理由のひとつとして挙げられるのが、「陽性的中率」です。陽性的中率とは、検査で「陽性」と診断された人が、実際にその病気である確率のことで、疾患や母体の年齢ごとにその値は変化します。
クアトロテストのダウン症候群に関する陽性的中率は、お母さんが40歳で妊娠16週目の場合、9.67%とすると、対して新型出生前診断の陽性的中率は、93.66%とその差は歴然です。
クアトロテストはいわゆる「スクリーニングテスト」で、検査によって障害がある赤ちゃんなのかどうか、白黒をつける確定診断検査ではなかったのです。
テストの結果が100%ではないため、クアトロテストで高い確率の陽性判定が出たとしても、その後羊水検査を受けなければはっきりしたことはわからず、また、的中率の低さから見てもわかるように、クアトロテストで陽性が出ても生まれてきた赤ちゃんに疾患は見受けられなかったということが多くあります。
結果として疾患のない赤ちゃんが生まれることは喜ばしい限りですが、高齢出産のリスクを少しでも減らしたいと受けるはずの検査が、逆に妊婦さんを苦しめる状況になっていることが事実としてありました。
近年導入が開始されたこの新型出生前診断は、検査方法として妊婦さんから血液をとるだけなので、お腹から羊水まで針を刺して検体をとる羊水検査に比べると、妊婦さんや赤ちゃんの負担やリスクは少ないのがメリットでもありますが、従来のクアトロテストのような採血による母体血清マーカー検査に比べて、その検査精度が高いことが検査を受ける大きなメリットとしてあげられます。
新型出生前診断の注意点は?
新型出生前診断は検査精度が非常に高いため、結果が陰性であった場合、染色体異常が起きていない確率は99.9%とされています。
逆に陽性の場合は、「染色体異常がある可能性が高い」とはされますが、実は新型でも、この検査だけで診断が確定するわけではありません。
確定診断をするためには、やはり「絨毛検査」または「羊水検査」を受ける必要があります。羊水検査は母体のお腹に針を刺し、羊水中にただよう赤ちゃんの細胞を採取・検査するものです。
羊水検査は半世紀以上の歴史を持つ古い検査方法ですが、この検査も受診者数は年々増加の傾向にあります。羊水検査は的中率が非常に高く、新型出生前診断よりも多くの女性が受診していますが、安全性には問題があります。
羊水検査は母体に針を刺す「侵襲的(生体内の恒常性を乱す事)」診断を行うため、流産の可能性が0.3%あるとされています。このリスクを冒してまで、検査を受ける必要があるかは、慎重に考える必要があります。
進む晩婚化、高齢出産者の増加
出生前診断を受ける方が年々増えているのは、やはり女性の社会進出による晩婚化と、それに伴う高齢出産者の増加が背景にあります。
実際、母体の年齢と染色体以上の関連性は高く、母体が20歳では1/500程度なのに対し、35歳では1/200程度、40歳で1/60、45歳では1/20の確率で発生しています。
高齢で授かった赤ちゃんですが、先天性異常を持って生まれてくるリスクを感じる女性は、もはや少数派ではないのです。
しかし、新型出生前診断で陽性と診断された妊婦さんの96%が、結果を受けて中絶をしていることも事実です。
日本ではクアトロテスト導入以後、高齢出産者を中心に「リスクのない出産」を希望して、出生前診断を受診する妊婦さんが激増しました。しかしそれは、障害がある子供の生存する権利を奪う行為に繋がると、一方ではその倫理観が問題視されてきました。
そのため、この新しい「非確定検査」は20年間受け入れずにきたのです。新型出生前診断という精度の高い検査方法が一般に広まったことで、命の選択をする妊婦さんが今また増えようとしています。
高齢出産に伴うリスクは多いです。お母さんとなる妊婦さん自身の問題、そして生まれてくる赤ちゃんについての問題、どちらも軽視はできません。
血液検査のみで母体には比較的リスクなく、これから生まれる赤ちゃんの状態がわかる時代になりました。しかし、これからはその事実を知った後のリスクについても考える必要があります。
検査を受ける際には、ご夫婦でカウンセリングを受けることを条件にしている病院や施設もありますので、出生前診断を受けるかどうかは、事前にご家族できちんと話し合い、納得できる判断の上で臨みましょう。
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